大判例

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長野簡易裁判所 事件番号不詳 判決

主文

被告人を罰金参千円に処する。

右罰金を完納することができないときは金貳百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

被告人は朝日新聞社記者として同新聞社松本支局に勤務していたものであるが、刑事訴訟法第二百二十六条の規定に基く長野地方検察庁検察官の請求により被疑者の氏名不詳の国家公務員法違反被疑事件について昭和二十四年五月十六日証人として召喚せられて長野地方裁判所に出頭し同裁判所に於て係裁判官から前示被疑事件の犯罪事実の要旨を告げられた上証人として宣誓することを命ぜられたところ、正当な理由がなく即時宣誓をなすこと及び証言を拒んだものである。

右事実に対する証拠は

一、被疑者不詳の国家公務員法違反被疑事件について昭和二十四年五月十六日長野地方裁判所に於て裁判官高津環は裁判所書記金田博を立ち会はせた上証人石井清に対し被疑事件の犯罪事実の要旨を告げ刑事訴訟法第百五十四条により宣誓を命じたところ証人は別紙上申書及び参考文献を提出し宣誓並びに証言一切を拒否した旨を記載し裁判官高津環及び裁判所書記金田博の各署名押印ある証人石井清に対する証人尋問調書及びこれに附属する書類として石井清宛に昭和二十四年五月十六日午後一時の証人召喚状を送達した旨の記載ある郵便送達報告書の各存在

一、被告人の当公廷に於ける私は昭和十九年十二月朝日新聞社に入社し昭和二十三年七月から昭和二十四年五月五月迄同新聞社松本支局に勤務していた旨及び私が長野地方裁判所より証人として召喚を受けその尋問のとき宣誓並びに証言を拒否した事実は間違いない旨の供述

を綜合してこれを認めることができるからその証明十分である。

弁護人は被告人の判示行為は新聞記者として憲法第二十一条に規定する言論及び表現の自由に従い記事の出所を秘匿する新聞倫理を遵守したものであるから刑事訴訟法第百六十一条第一項の正当な理由がある場合に該当すると主張するけれども、わが国の現行法上新聞記者に特別の証言拒否権は認められていないと解すべきところ、本件に於て被告人は単に記事の出所についての証言を拒んだだけではなく前記判示事実に摘示したように証人として宣誓すること及び証言全部を拒否し、被告人の提出の上申書は前示解釈に反して新聞記者に特別の拒否権があることを理由とするものであるから正当な理由によつて拒んだものとは認め難く右主張は採用することができない。尚また弁護人は被告人の判示行為は刑法第三十五条に所謂正当の業務に因り為した行為であるから違法性がない旨並びに新聞記者である被告人に対して証人として記事の出所を明かにする供述を求めることは社会通念上期待され得ないから所謂適法行為の期待可能性なく責任を阻却する場合に該当する旨の主張をするけれども、新聞記者が証人として宣誓又は証言を拒む行為を正当な業務に因つて為すものと認めることはできないのみならずわが国法は新聞記者にも証言を期待し記者も亦これに従う義務があるものと解すべきであるから右各主張も採用することはできない。

法律を適用すると被告人の判示行為は刑事訴訟法第百六十一条第一項に該当するから所定刑中罰金刑を選択しその金額の範囲内で被告人を罰金三千円に処し右罰金を完納することができないときは刑法第十八条に従い金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項に則り全部被告人がこれを負担すべきもとする。

よつて主文の通り判決する。(昭和二四年一〇月五日長野簡易裁判所)

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